
岡野弘彦という歌人がいらっしゃる。西暦1924年生まれというからもう戦中派の96歳。元国学院大学教授。ご存命である。つい最近までNHK短歌の選者もなさっていました。
一夏の我の憂いの眼のやりど萩ひとむらを焼きつくすなり
短歌に興味を持った頃この歌に出会った。知識がまさらの状態だったので、激しい恋愛の歌だと思ってしまった。こんな激しい情熱を映像生々しい歌にできる歌人に憧れてしまったのだが、この歌はそうではないことがだんだん判明してくる。
ただひそかに自虐の襞を刻みこし世代の顔の一つか我も
特攻機つらねゆきたるわが友のまぼろし見ゆる天の鶴群
歌の解説書に 「夜空を見上げて、岡野は戦死した友を思っている。特攻隊員の多くは帰らぬ人となった。岡野は現在進行形の戦争を、つぶさに見ながら、自分の友の命を奪った先の戦争に思いを馳せている。今では日本は平和だが、世界では戦争はあちこちで起きているが、ここに岡野の当事者意識がある。それゆえ岡野の作品はプロパガンダを越えた、抒情詩としての普遍性がある。」とあります。
岡野弘彦氏は神主の家に生まれ、皇學館、國學院に学び、戦中派学徒兵として、また戦後は安保闘争の学生達の橋渡し役として激動の戦中戦後を生きてきた方である。
かくむごき戦(いくさ)を許ししらじらと天にまします神は何者
のどかなる 老いのこころを願へども 鎮まりがたし国もわれらも
また国学者として万葉集にも造詣が深い。
真白羽を空につらねてしんしんと雪ふらしこよ天の鶴群 岡野弘彦 歌集『天の鶴群』
「あまのたづむら」 と読みます。美しい言霊とその激しくも情念深き歌であることよ・・・・
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